蓄電池の王様は鉛蓄電池である。などというネタはさて置いて、リチウムイオン,ニッケル水素の二種が一般的な主流だろうか。
旧来のニッカドなどと比べると、
・高いエネルギー密度
・人体に対する有害物質(カドミウム)を含まない
・急速充電が技術的に容易
・自己放電が少ない
・継ぎ足し充電してもメモリー効果を起こし難い
とされている。最後の二つを除けば事実であり、リチウム系について言えばすべて事実である。
ニッカドも特殊な用途には未だに使われていて、過放電,過充電に比較的に強い事から、太陽光充電に依る自給自足のガーデンランプなどに使われている。手荒に扱えるのだ
リチウム系の充電池は、スマートフォンやポータブルプレーヤ等の電子デバイスの普及と共に爆発的に普及している。その理由は、非常に高い電気密度が第一に挙げられる。他に、充放電制御の為の専用チップ(IC)の普及などがある。
しかし、ニッケル水素充電池等に比して、奇異な面がある
ニッケル水素充電池が汎用的な形式で普及しているのに対して、リチウム系充電池はビルトイン乃至機種固有の充電池として製造される事が圧倒的に多い
もちろんリチウム系充電池にも汎用的な形式があり、18650や14500などといった形状のわかり易い型番が与えられ、ユーザが自由にセルを交換出来る機器も無くは無いが、そうした汎用セルでもビルトインされている機器がほとんどである。何故か?
リチウム系充電池は、過放電,過充電,過電流等により容易に劣化し、その事で発火,爆発といったドラスティックな結果を招き易いからである。電解溶液に使われている有機溶剤はほとんどガソリンであり、リチウム系充電池をハンマーで叩くだけで内部ショート発火による誘爆を引き起こす。
一般的な店舗で生セルが売られる事はまず無いし、保護回路(過放電,過電流等の防止回路)付きのセルが推奨される事が多い。もちろんビルトインされている機器には保護回路が実装されている
では、ニッケル水素はどうなのか。
同様に、過放電,過充電,過電流に弱く容易に劣化する。爆発こそ聞いたことは無いが、ショート等過電流により発火した事例はある。しかし極めて稀な事で、セルにも機器にも保護回路などというものが実装された事は無い。
余程駄目な充電器を使わない限り、一般的な利用で起こりえるのは過放電ぐらいであるから、ドラスティックなリスクはほぼ無いと言っていい
そして、この過放電こそ、ニッケル水素充電池を使うに際して多くの人がやってしまっている事で、結果として著しくその寿命を短くしている
充電池には放電終止電圧というものがある。一般に終止電圧という。適切なと形容される事が非常に多く、放電に於いてそれ以上でもそれ以下でもニッケル水素充電池は期待通りに作動しなくなる。
別の言い方をすれば、過放電により容量が減るなどの劣化が急速に進み、継ぎ足し充電によりメモリ効果を引き起こし電圧低下が起こる
メモリ効果による電圧低下に関しては、その対処は比較的容易に復旧可能である。2〜3回の充放電(満充電と終止電圧までの放電)を繰り返せば劣化していない限りメモリ効果は解消される。
メモリ効果とは、浅い放電深度で繰り返し充放電、少し使っては充電する俗に言う継ぎ足し充電、を続ける事で、浅い充電や低電圧満充電を電池が憶えてしまう現象をいう。これを解消して、充電池を正常な状態に戻すのをリフレッシュと言い、放電器が必要になる
でも、そんな使い方するのか?
電動ラジコンユーザーでも無い限り、浅い放電深度で繰り返し充放電するなんて事は滅多に無いだろう。電動ラジコンやミニ四駆などの場合は、少しパワーが落ちれば取り替える。その充電の前に終止電圧まで放電する為に放電器は必携な訳だ。
かつてポータブル・ミュージック・プレーヤーにニッケル水素充電池が使われた事がある。一度の外出での使用の多寡に拘らず、帰宅すれば充電して、次の利用での最大限の持続時間を期待するという使い方は、正に継ぎ足し充電だった。しかし、そのテの機器の充電池には今やリチウムイオンが使われるようになった。これは、スマートフォン等のバッテリーも同じで、メモリー効果が全くと言っていいほど無くデンドライトも起こさない
むしろ、ニッケル水素充電池でやってしまいがちなのは過放電である。
セルにはもちろんだが使用機器に保護回路なんてものは付いていない。そもそもAA, AAA(単三型,単四型)等の汎用電池を使う機器のほとんどが乾電池を想定している。御丁寧に電池蓋の裏に「充電池は使わないで下さい」などと記しているモノも多い。ニッケル水素充電池は1.2V,乾電池は1.5Vと定格電圧が異なるので、稀には充電池で動作しない機器もある。
乾電池は使い切りの電池なので、当然絞り尽くすまで使う。そして、同じ様にニッケル水素充電池を使うと、過放電になる。最悪の場合は深放電(ほぼ0Vまで降下)させてしまい使い物にならなくなる。
典型的なケースは、ライトでの使用だ。フェアリーランプであろうとLEDであろうと、少し暗くなったと気付いた時には既に過放電を起こしている。ニッケル水素充電池は放電曲線が比較的フラットなので、電圧降下が起こったとわかった時点では既に取り替えのタイミングは過ぎている
過放電させない方法にはどんなものがあるだろうか?
バッテリーチェックなど面倒でやれるものではない。機器にバッテリーインジケータや終止電圧に近付くと警告ランプが点灯するなどの回路を取付けるのは理想的だが、これも結構面倒臭いしスペースの問題もある。
現実的と思えるのは、ある程度のランタイムを把握しておいた上で、早目に取り替える事だが、この場合にも有効なのが放電器であり、取り外した充電池を終止電圧まで放電させてから充電するようにする。早目に取り替える。言うは易し…
個人的によくやるのは、終止電圧に近付くと消灯するパイロットランプを機器に取付ける事です。これなら、ツェナーダイオードとブリーダ,砲弾型LED,スイッチを直列にして、バッテリーと並列に繋ぐだけでいい。電流も数mAも流せば十分だしね。
適切な終止電圧と言っても、決まった電圧がある訳では無く、負荷によって終止電圧も変わる。特定の機器での終止電圧を知るには、放電器で終止電圧まで放電した充電池を機器に入れて駆動させ、その際の電圧を計測すればいい
もちろん、駄目になったら棄てればいい、と考える人も多いだろう…。それはそれで正解だとも思う
多くの機器では電池複数本を直列で使用する。
数十回と充放電を行なっている内に、それらの充電池の性能にバラツキが出始める。そして、残量や取替時の電圧にも差が現れ、あるものは過放電で劣化し、あるものは継ぎ足し充電をする事になって電圧低下が起こる。これが更なるバラツキを作り出すという悪循環を生み出し、加速度的に充電池を駄目にしていく
これはリスクの高いリチウム系でも同じことが言える。だからかどうかは知らないが、リチウム系充電池を1セルしか使わない機器が多い。放電能力が高いというのもありそうだ。1セルなら単純な保護回路で大丈夫だしね。
リチウム系を組電池にしている代表的な機器はラップトップ(ノート)パソコンで、生セルを並列,直列に接続している。この為に、保護回路も1セル用とは異なり複雑なものとなっている。バランス回路と言われるもので、直列に接続された各々の段ごと個別に充放電を制御している。各セルの過放電,過充電,過電流等を防止する為のもので、バラツキを防止するものでは無いが、結果としてバラツキも生じ難くさせている。
バランス回路の信頼性は非常に重要なものなのだが、ラップトップパソコンに於いてリコールが最も多発しているものでもある。
モバイル電源にもリチウム系の組電池がビルトインされているものが多い。スマートフォンやタブレットを充電する為の持ち運び可能な電源である。容量で2〜3000mAhなら1セルだが、大容量のものには組電池とバランス回路が実装されている。あまり聞いた事の無いメーカの製品がいろいろ出回っているのが実情です
では、ニッケル水素充電池を組電池で使う場合はどう管理すればいいのか。
ラジコンの世界では、パッキングされた組電池を各セル個別に充放電する機器がある。バラツキを防止するものでは無いが、ラジコンの使用上、過放電まで追込んで使う事は無いだろうからそれで良いのかも知れない。そして、レースに出場している様な人達は、汎用セルを使っている場合は当然で、パッキングされたバッテリーならこれをセル単位にバラして、各セルを容量の揃ったセットに組み替えたりする。
これを、マッチングと言う。バラツキが生じるのは前提であって、これを組み替えてバラツキの無い状態にして使用する
マッチングの為には、使用するセットの数倍のセル本数とセル容量を測定可能な機器が必要になる。各セルの使用累積時間は問題にならない。同じ銘柄の沢山のセルを近い容量のもので揃えたセットにグルーピングしていく。ラジコンユーザなら、容量の大きなセットが本番用で、小さなセットが練習用になる。
つまり、こんな莫迦げた買い方,使い方は、一般的では無いという事だ(笑)
一般的な使用と言っても、ローテーション用に2〜3セットは用意しているかも知れない。そして、もしも容量測定可能な機器を持っているなら、その2〜3セットをマッチングするのは、充電池の寿命を飛躍的に伸ばすだろう。では、そこまで出来ない場合はどうするか。
当然、妥協した方法しか行なえない。対処は、より早目に取り出す事で過放電だけは絶対にしない事に尽きる。より早目に機器から取り出し、放電器で各セルを適切な終止電圧まで放電する。これで先述した悪循環は避けられる。妥協だけれどね。
先ず、取り出したセットを放電器にかけた時にバラツキに気付く様になる。劣化したセルは放電が早く終了する。もしくは既に終止電圧まで放電しておりそれ以上に放電器で放電できない。この劣化したセルは、充電すると他のセルよりも早く充電が終る。
結論と思うのは、高機能,多機能な機器を使う事かな
欧米では、パソコンで制御出来る充放電器などが出回っており極々普通の人達が使用している。充電池というモノの適切な扱いが周知されているという事でもある。この温度差はどこから来るのか。なんて事はここでは手に余るけれど、…
最近はスマートフォンで制御出来る充放電器なんてものもある
POWEREX MH-C9000
-- www.mahaenergy.com/mh-c9000/
AA, AAAを4本各セルを個別に管理出来る多機能高機能の定番充放電器
電流の設定、容量,電圧,電流,充放電時間を確認可能で、充電,リフレッシュ分析,ブレークイン,放電,サイクル充電の5モードがある。オークションの相場で5,000円ぐらい
HiTEC X4 ADVANCED
-- www.hitecrcd.co.jp/products/hitec/charger/X4_advanced/
AA, AAAを4本各セルを個別に管理出来る多機能高機能,スマートフォンで管理可能な充放電器
電流の設定、容量,電圧,電流,充放電時間,内部抵抗値を確認可能で、スマートフォンで充放電のグラフ表示も出来る。MH-C9000を更に多機能化したレベルのモノと考えて良さそうだ。ミニ四駆,MINI-Z等のラジコン市場がターゲットセグメントである。海外通販が安いです
ブレークインとサイクル充電はこの様な多機能充電器があると容易に(自動で)行なう事が出来る。
ブレークインとは、新品の充電池は大きな電流で充電すると傷めてしまう(と言われている)ので、小さな電流で長時間かけて2〜3回の充放電をして、充電池をベストコンディションにしてやる事です。
サイクル充電は、複数回の充放電を行なう事で、ブレークインと目的は同じ。新品の充電池だけでなく、放置していたり、過放電で劣化した充電池のコンディションを戻す事も出来る場合がある
まともな充電器と放電器があれば一通りの事は出来る
先ずは、セル単位で個別に制御可能である事。次いで、充電電流の切替えが可能で、売り文句にされがちな急速充電だけではなく、低電流での充電が可能なモノが望ましい。満充電検出も優れた方式で、不良電池を摘出したり、サーミスタ内蔵など、安全性の高いモノが良い。放電機能(リフレッシュ機能と記されている場合も多い)があれば尚良い。
市井の大型電器店などで入手出来そうなのは、
BQ-CC55, Panasonic
BCG34HRE4RA, SONY、リフレッシュ機能付
オークションまで手を拡げるなら、
NC-MR58,SANYO、リフレッシュ機能付。相場1000円ぐらい
――どれもこれも妥協の買い物といった感は拭えませんが、高機能充放電器と比べれば安いので。
明らかだと思える事ですが、日本の家電メーカは、ニッケル水素充電池の充電器を開発しようとは考えていない。十年以上前からその機能に進歩は無いし、急速充電が優れたモノであるかの様に印象付けたり、簡単とか安心とか、いつもの詐欺紛いのキャッチで広告を打つ事しかしていない様子です
余談ですけど、リチウム系の充電器では、XTARがいいですね。
例えば、最近実売価格が低くなった機種で、
XTAR VP2,2セル独立制御,LCDに電圧電流の表示, 3.2/3.6/3.8V, 0.25/0.5/1A等のオプション