ホイールが重要視されるのは当然だけど、その場合、エアロダイナミクスとウェイトばかりが注目されがちだ。これは、高速巡航性能とヒルクライム等の定常的な加速性能に影響するので、当然といえば当然だね
高速性能として重視されるのがエアロダイナミクスであり、50km/hでの風洞実験結果などが公表されている。50km/hという高速巡航では、リムハイトとスポーク本数,スポーク形状が大きな差をもたらす。
標準的な大気(空気密度)で平地を50km/hで走行した場合、かつてのクラシックリムと32Hホイールでは、前輪にかかる負荷動力として50〜60ワットほど必要になるが、エアロホイールでは20〜30ワットが主流で、その差は30ワット程にもなる。しかし、あくまで50km/hの速度に於いての事だ。
また、ダイナミック(動的)バランスも重要で、40km/hを超える辺りから、バランスの悪いものはブレ始め、転がり抵抗とトルクロスが急増する。
例えば、TTであれば、精度の高いエアロホイールを選択するのは当然の帰結なのだ
しかし、今時、クラシックリムも無い。手組ですら25〜30mmハイトのセミエアロリムが常識になった。50km/hでの負荷は35ワット辺りが主流で、その差は、50km/hにして15ワット程である。
この差は、速度域が下がれば、激減する。40km/hでは差は一桁に過ぎない
10ワットの差はどのぐらい重要なのか?――50km/hでは、エアロバイクですら400〜450ワット程の動力が必要になる。ロードバイクであれば、下ハンドルポジションで500ワット強が必要だ。ポジションを変えただけで簡単に600ワット必要になり、もしもカジュアルな服装で走ろうものなら軽く700ワットを超えてしまう。
もちろんレースなどではほんの少しの動力差を詰めていくのが当然だが、他に重要なホイールファクターは無いのだろうか?
一方、ヒルクライムではエアロ効果よりも軽量である事が重視される。その為に28Hホイールを使うなどが持て囃され、ホイールの質量は10倍の影響があるなどと莫迦げた体感意見が支持された事もあったらしい。
最近はメーカーも慣性モーメントをデータとして公表している。これを半径で割れば等価質量が出る訳だ。常識的に考えてもそうなのだが、実際的に、等価質量としての増加分はせいぜい50%ぐらいである。つまり100gの軽量化を行っても150gの等価質量差にしかならないという事だ。1kgのダイエットをしたほうが効果が高いとは冗談で良く言われるのだが、軽量フレームを使うなどの方が一般にも効果が高い
この辺りの、出力負荷について、
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特にホイールに関しては、その重量や慣性モーメントのみならずリムハイトやスポーク本数等からエアロダイナミクスをプレディクト出来ます。ハイエンドホイールを中心に市場に出回っている数十銘柄の風洞実験結果から非線形処理しています
ホイールの性能にはどんなものがあるのか、一度良く考えてみるべきだろう
・エアロダイナミクス
・ダイナミックバランス
・慣性モーメント
・トルク効率(回転剛性とでも?)
・横剛性
・耐久性
既に記したが、TTレースであれば、最初の二つを偏重するべきだ
では一般的なロードレースではどうなのかは、戦略乃至選手タイプやコースにも依る。逃げを打つのであれば、TTと同様の選択肢もあるかも知れないが、そうそう成功する戦略では無い。
最後のスプリントに賭けるというのであれば、慣性モーメントやトルク効率も重要だ。その場合、巡航時はプロトンを積極的に利用する事でエアロダイナミクスはさして重要な問題にはなら無いとすら言える。高速域からの加速性能を重視する事になるだろう
クリテリウムとなれば、更に横剛性も大事になる。コーナーリングスピードに関ってくるからだ。高速巡航性能に特化したホイールは概して撓み易く、アンダーステア気味になってしまう。後輪の滑りが良くないのだ。所謂“後ろが速い”状態になってくれない。また、スプリント同様に、加速性能も大事だ
性能とは言い難いが、メンテナンス性も加えていいかも知れない。もちろん、ツーリングなどで重視される。一本ぐらいスポークが折れても地域のショップまで平気で走れ、そして容易に換えが利くなど。ツーリングの場合は、耐久性とメンテナンス性に尽きる
大まかな方向性として言えば、高速巡航性に特化しつつあるのが完組ホイールで、耐久性やメンテナンス性がありトルク効率や横剛性にも優れているのが手組ホイールの傾向だと言える。もちろん、モノ次第であるのは当然だが
TTレースや郊外の信号もほとんど無いような道であれば、完組のエアロホイールに優れモノが多いだろう。クリテリウムや市街地のストップ&ゴーであれば、軽量ながら剛性も確保した手組ホイールも選択肢に入るかも知れない。ツーリングなら迷う事も無く手組ホイールだ