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メーカーにはなかなか出来ない事もある――

完組ホイールが進化する中、手組もまた長所が見直されている

完組ホイールは、一般にエアロ志向にあり、高速性能を追求するところから、ダイナミックな(動的)バランスにも優れたものが多い。剛性と重量さえトレードオフの関係ではなくなってきた。これは、シミュレーションや風洞実験を通じて、設計段階で最適化して来た事の成果である。
しかし、そうして限界まで追求して来たホイールは、高級品ほど耐久性が無かったり、加速性能に劣ったり、横剛性に弱くコーナーリングを楽しめないものも多い

一方、手組ホイールは、一般に耐久性が高くメンテナンスが容易だね。例えば、ツーリングなら断然手組ホイールだ。そもそも互換性を保っているパーツから組み上げる訳だから、汎用的な性質のあるものが多い。
ところが、最近はリムハイトのあるものなどでスポークの間引きなども出来るようになり、エアロスポークも使えるようになった。組み方には自由度があり、ホイールの性格を好みに仕立てる事も出来る。モランボン組み(左画像)なんて事も出来る。
問題は、技術レベルの高いショップ/職人にオーダーする事にある

既に一般的な手組ホイールを持っているなら、ソルダリングによって剛性を上げる事が出来る。そして、ソルダリングだけはショップに依頼しないで、自分でやった方がいい作業の一つなのだ
 


 
soldering
21st January 2009
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chapter1: ホイールの性能
 
1-1. ホイールの負荷
1-2. 性能要因
1-3. 完組と手組の方向性
 
chapter2: 手組にしか出来ない事
 
2-1. 組み方いろいろ
2-2. スポークの間引き
2-3. モランボン
2-4. ソルダリング
 
chapter3: ソルダリング
 
3-1. 洗 浄
3-2. ワイヤ巻き
3-3. ソルダリング
3-4. 二通りある
 
chapter4: インプレッション
 
4-1. 加 速
4-2. コーナーリング
4-3. 雑 感
 


chapter1: ホイールの性能


ホイールが重要視されるのは当然だけど、その場合、エアロダイナミクスとウェイトばかりが注目されがちだ。これは、高速巡航性能とヒルクライム等の定常的な加速性能に影響するので、当然といえば当然だね

高速性能として重視されるのがエアロダイナミクスであり、50km/hでの風洞実験結果などが公表されている。50km/hという高速巡航では、リムハイトとスポーク本数,スポーク形状が大きな差をもたらす。
標準的な大気(空気密度)で平地を50km/hで走行した場合、かつてのクラシックリムと32Hホイールでは、前輪にかかる負荷動力として50〜60ワットほど必要になるが、エアロホイールでは20〜30ワットが主流で、その差は30ワット程にもなる。しかし、あくまで50km/hの速度に於いての事だ。
また、ダイナミック(動的)バランスも重要で、40km/hを超える辺りから、バランスの悪いものはブレ始め、転がり抵抗とトルクロスが急増する。
例えば、TTであれば、精度の高いエアロホイールを選択するのは当然の帰結なのだ

しかし、今時、クラシックリムも無い。手組ですら25〜30mmハイトのセミエアロリムが常識になった。50km/hでの負荷は35ワット辺りが主流で、その差は、50km/hにして15ワット程である。
この差は、速度域が下がれば、激減する。40km/hでは差は一桁に過ぎない

10ワットの差はどのぐらい重要なのか?――50km/hでは、エアロバイクですら400〜450ワット程の動力が必要になる。ロードバイクであれば、下ハンドルポジションで500ワット強が必要だ。ポジションを変えただけで簡単に600ワット必要になり、もしもカジュアルな服装で走ろうものなら軽く700ワットを超えてしまう。
もちろんレースなどではほんの少しの動力差を詰めていくのが当然だが、他に重要なホイールファクターは無いのだろうか?

一方、ヒルクライムではエアロ効果よりも軽量である事が重視される。その為に28Hホイールを使うなどが持て囃され、ホイールの質量は10倍の影響があるなどと莫迦げた体感意見が支持された事もあったらしい。
最近はメーカーも慣性モーメントをデータとして公表している。これを半径で割れば等価質量が出る訳だ。常識的に考えてもそうなのだが、実際的に、等価質量としての増加分はせいぜい50%ぐらいである。つまり100gの軽量化を行っても150gの等価質量差にしかならないという事だ。1kgのダイエットをしたほうが効果が高いとは冗談で良く言われるのだが、軽量フレームを使うなどの方が一般にも効果が高い


この辺りの、出力負荷について、ライダーの体格や器材スペック,様々な環境を設定し走行シミュレーションを行なえる計算ソフトウエアが「cyclePowerSim」です
特にホイールに関しては、その重量や慣性モーメントのみならずリムハイトやスポーク本数等からエアロダイナミクスをプレディクト出来ます。ハイエンドホイールを中心に市場に出回っている数十銘柄の風洞実験結果から非線形処理しています
 



ホイールの性能にはどんなものがあるのか、一度良く考えてみるべきだろう

・エアロダイナミクス
・ダイナミックバランス
・慣性モーメント
・トルク効率(回転剛性とでも?)
・横剛性
・耐久性

既に記したが、TTレースであれば、最初の二つを偏重するべきだ

では一般的なロードレースではどうなのかは、戦略乃至選手タイプやコースにも依る。逃げを打つのであれば、TTと同様の選択肢もあるかも知れないが、そうそう成功する戦略では無い。
最後のスプリントに賭けるというのであれば、慣性モーメントやトルク効率も重要だ。その場合、巡航時はプロトンを積極的に利用する事でエアロダイナミクスはさして重要な問題にはなら無いとすら言える。高速域からの加速性能を重視する事になるだろう

クリテリウムとなれば、更に横剛性も大事になる。コーナーリングスピードに関ってくるからだ。高速巡航性能に特化したホイールは概して撓み易く、アンダーステア気味になってしまう。後輪の滑りが良くないのだ。所謂“後ろが速い”状態になってくれない。また、スプリント同様に、加速性能も大事だ

性能とは言い難いが、メンテナンス性も加えていいかも知れない。もちろん、ツーリングなどで重視される。一本ぐらいスポークが折れても地域のショップまで平気で走れ、そして容易に換えが利くなど。ツーリングの場合は、耐久性とメンテナンス性に尽きる
 



大まかな方向性として言えば、高速巡航性に特化しつつあるのが完組ホイールで、耐久性やメンテナンス性がありトルク効率や横剛性にも優れているのが手組ホイールの傾向だと言える。もちろん、モノ次第であるのは当然だが

TTレースや郊外の信号もほとんど無いような道であれば、完組のエアロホイールに優れモノが多いだろう。クリテリウムや市街地のストップ&ゴーであれば、軽量ながら剛性も確保した手組ホイールも選択肢に入るかも知れない。ツーリングなら迷う事も無く手組ホイールだ
 




chapter 2: 手組にしか出来ない事


組み方のバリエーションと言えば、もしかすると完組の方が多岐に亘るのかも知れない。むしろ、独自の組み方があると言える

しかし、組み方によってホイールの個性を作ろうと思うなら、手組でやる他無いのだ

大別してラジアル組みとタンジェント組があり、更にタンジェント組には四本,六本,八本組とある。また、JIS組とイタリア組ではスポークのハブホールへの通す方向が違う。これらは、それぞれ特徴があるのだが、この辺りは、解説してくれているサイトも多いので、今日のところは、割愛する

以下では、特殊な組み方を紹介する事にする
 



クラシックリムでは考えられない事であった。エアロリムのリムハイトが高くなり、縦剛性が強くなり、スポークを間引いても問題無い事がわかってきたのだ。30mm以上のハイトであれば、16本ぐらいのスポークで必要な剛性を確保出来る。例えば、フロントに12〜16本、リアに16〜24本

左の画像は小径車のもので、何も考えてない間引き方にしか見えない

リム側は、スポークの角度がある程度織り込み済みになっているので、実際的には一本飛ばしで間引く訳にいかない。二本取付二本飛ばしといった感じで間引いていくのだが、左右の本数を違えるなどして強度を確保するのも設計手法になる

とは言うものの、ここまでしてエアロ効果を追及するぐらいなら、その場合は完組を買った方がいいのではないかと思う。もちろん、ヴィンテージ・ロードを所有していて、126mmオーバーロックナットのハブを使ってエアロホイールを組むというのならありだろうけど
 



ねじり組とも言われ、変則組というよりもはや変態組という感じなのだが、性能は良い。同じサイドで隣接するスポークを依り合わせて、アヤの部分でズレ無くしてしまう。
その事で、タンジェント組でのスポーク同士の摩擦によるロスも軽減される。ホイールの全体的な剛性があがり、トルクロスも小さくなる。結果として、加速が鋭くなり、コーナーリングでの安定性も向上する

しかし、素人が組むのはまず不可能と思ったほうがよくて、実際的にはショップを頼る事になる。しかし、どこのショップでもやってくれる訳では無いし、それなりに手慣れてる人でなければちゃんとしたものは出来ないだろう

メンテナンス性も落ちる。スポークが折れても容易に取り換える訳にはいかないからね

個人的には、見栄えが、…
 



冒頭の右画像がソルダリングであり、タンジェント組のアヤの部分を半田付けして固めてしまうもの。
効果は既述のモランボンと同様である。加速が鋭くなり、コーナーリングも安定度が増す。どちらがより優れているのかは知らないけど…

モランボンが技術を要したように、ソルダリングも、半田付けの技術を要する。とは言っても、敷居は低い。むしろ、ショップがやってる出来栄えを見るにつけ、これはショップに依頼しない方がいい。
何故か?――ショップのサービスでのソルダリングの相場は1ホイール当り2,000円前後である事から、この作業に1時間以上は掛けることは出来ないだろう。すると、最も肝心なワイヤ巻きで手抜きする他無いのだ。実際、太めのワイヤで数回巻き捻って留めたモノにハンダを流し込んでいるものが多い。これでは強度も確保出来ないし、ともすれば、ハンダが剥がれてしまう事もあるだろう

ソルダリングをするなら、自分でやった方がいい。用意するものは、ハンダゴテと左画像の様なステンレス用のハンダとフレックスのみ

ところで、モランボンについても言われる事だが、ソルダリングをすると耐久性が落ちるといわれている。不可解な事には、同時に、パワーのある人や体重のある人はこれをする事により、スポークが切れ難くなるとも言う。
これは相反する事としか思えないのだが、どちらが本当なのだろう?
と、言っていたら、友人いわく「フレームの耐久性が落ちるんじゃないか?(笑)」と。確かに、モランボンにしてもソルダリングにしてもホイールの衝撃吸収力は落ちるので、その分フレームに負担が掛かる筈だ。まぁ体重にも依るのだろうが、何がどこまで本当かは疑問が残るところかな…

以降、ソルダリングについて詳述する
 




chapter 3: ソルダリング


アヤの部分だけでいいのだが、念入りに洗浄しておかないとハンダの乗りが悪くなる

これをやった時は、歯ブラシを使って中性洗剤で磨いて洗浄した。
最初、ふと歯磨き粉を使ったらピカピカになるかも知れないと思ったけれど、フッ素コートとかそういうのが悪影響を及ぼすかも知れないのでやめた

因みに、リアホイールのみ。
何故かというに、トルク剛性はフロントにはそれほど影響が無い。コーナーリングでの撓みにしても、リアはオフセットがありフランジ幅も狭く荷重もフロントより高い。
むしろ、フロントのソルダリングは無用なのでは無いかとすら思う

これだけでも1ホイールに30分ほど掛かった
 



ここが重要なのだ。重要で無い作業など無いけれど…

ソルダリングの強度は、ハンダで確保するものであって、ワイヤは補強するものですらない。ワイヤは、唯単にハンダを均一に乗せる為のモノに過ぎない。
つまり、細いワイヤほど強くコンパクトなソルダリングが可能になる

極細でいい。手で引きちぎれてしまいそうなぐらい細いもので

それを丁寧にコイル状に巻いていく。写真のモノは、交点から内外に6回転づつの計12回転巻いている。ワイヤの端は、コイル状になったモノの中に引き込んで、途中で切ってしまえばいい。結んだりする必要は無い

1ホイール16ヶ所に2時間以上掛けたと思う

何度も言うようだけど、ショップのサービスではこの作業が実に杜撰なものが多い。とあるショップでは、「ソルダリングのハンダは部分的に剥がれるものなので、暫く走行したら再度ソルダリングし直さなきゃいけない」としていたが、正直、耳を疑った。そんな事がある訳無いのだ
 



ここまでくれば作業は楽なものである。1ホイール16ヶ所にに10分も掛からない

とは言え、半田付けのテクニックというものがある。フラックスを使うので、ワイヤとスポークを十分に熱してハンダを流し込む、と言うよりむしろ、部分的に熱したらすぐに流し込むという感じで進められる

半田付けが終わったら、もう一度中性洗剤でよく洗浄する。このプロセスも重要だ。というのは、フラックスは酸性であり、ハンダやスポークを腐蝕するので、完全に取り除いておく必要がある
 



以上が普通のやり方です

もうひとつは、スポークにハンダをつけない方法がある。
これは、スポーク同士の摩擦による負荷が低減しないので、あまり効果の無い方法なのだが、多少剛性が上がりながらメンテナンス性に優れるところが長所になる。
仮にスポークが折れても取り換え易い
 




chapter 4: インプレッション


明らかに加速が鋭くなった。
リムは剛性が高いと評されているものだったのだが、それでもトルクロスがあったという事だ

低速域から高速域まで、一様に鋭くなっていて、やって良かったと思う
 



実は、当初は思いもしなかった効果だった。
体感的に言えば、加速よりも、コーナーリングの安定度が良くなった事の方に驚いた。それほど変化した

尤も、それまでのセッティングの傾向もあるので、どんなバイクでもソルダリングでコーナーリングが良くなるとも思えないが、一様に改善されるのでは無いかと思う

“後ろが速い”という状態がわかるだろうか?
車両というのは、基本構造的にはアンダーステアである。もし後輪でハンドリングするなら、オーバーステアになる、と言えば、感覚的に想像出来ると思う。
そして、基本構造的にアンダーステアであるものを、荷重の前後配分などでセッティングしていく。どんな車両もこの点では基本的に同じである

コーナーリングでは、前輪も後輪も滑り角度というものがある。滑ってないように感じたとしても、実はタイヤは滑っているのである。この大きさを決定するのが、セッティングだと言い換えてもいい

後輪が撓むと、ホイールはその分だけ立ち上がり、滑りが悪くなる。その結果として、アンダーステアが出てしまう事に繋がる。高速であればあるほど、後輪はイン側へ向けて捻れもする。これで更にアンダーステアが大きくなってしまう。
ソルダリングによって横剛性が高くなったホイールは、撓みが出なくなり、アンダーステア解消に繋がったのだろう

思わぬ収穫だった事もあり、これには非常に嬉しかった
 



フロントにもやれば何等かの効果があるのだろうか?
トルクには全く関係無いし、形状からしてコーナーリングでの撓みにも無縁だろう

あり得るとすれば、高速域での、例えば40km/h以上での、ダイナミックバランスの問題ぐらいしか無い。高速域でのブレが無くなり、最高速もだが、高速域での加速が良くなるのであれば、やらない手はないとも思う

そんな感じで、現在迷っているところ。。
 




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